写真選評
晩霞
’1980 カメラ毎日 8月号
アルバム’80
●田中雅夫(写真評論家)

  安田穫史「晩霞」は堀辰雄の「風立ちぬ」をふと思い浮かばせるような散文詩的な抒情の世界である。堀辰雄はしばしば軽井沢の別荘を舞台にしたりしたが、ここにもそんな雰囲気があり、ステンドグラス・ガーデン・チェアやシャガール風の絵やヴィーナス像などが写されているが、それらの題材は慎重に選ばれている。追憶の心象風景といった印象があり、純粋に自分の狭い世界をまもり切ろうという、かなりパーソナリティーのつよい作品といってよいだろう。


 後に私は、堀辰雄が翻訳している、ドイツの詩人リルケの墓を訪ねた。墓はスイス・シオン川上流に位置し、リルケの亡くなる原因となった真っ赤な薔薇に囲まれていた。(リルケ家へ訪れたご婦人に薔薇を差し上げるべく庭の薔薇を切っていたその時、薔薇の棘で指を傷つけたことから急性白血病になり、1926年に51歳の若さで死去。)
’1983 カメラ毎日 1月号
アルバム’83

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