《 私のプリントワーク 》
( '1977 アサヒカメラ増刊号より )
  写真の最終表現になるプリントだが、未だにこれで満足ということなく、その奥深さを感じているのが現状である。私も数々の失敗を経験してきた一人だが、一枚のネガで十数枚もプリントし、それでも思いどおりにならず、お手上げということがしばしばある。それだけに無限の表現が可能で、その苦痛を楽しさにかえるよに努力している。 撮影時のイメージを抱き、いかにプリントするかを考えながら暗室に入るのだが、工程も多くなかなかうまくいかない。十枚、二十枚と繰り返しプリントし、やっとつかめる感じで、それをどこまで言葉にできるか難しいが、体には残るようだ。いずれにしろ撮影と並行しして習得していく作業であり、理屈ではなく体で知ることにしている。だからこうすればよいとなかなか言い切れないので私がプリントワークの上で常に注意している事をあげてみる。 ● 点検整備表を作っておこう
  まず、プリント作業に入る前に、次の事柄を点検している。薬品類の点検・在庫種類・在庫量、保存状態、以上を平常の使用量を考えてローテーションに注意している。とくに梅雨時から夏にかけての高温多湿は、必要最小限を暗室に持ち込み、その他は適切な場所に保管しておく。つぎに感材だが、薬品と同じく注意事項と使用期限に注意している。また暗室は常に乾燥状態に保ち整理整頓に心がけ、とくに薬品の溶液は取り扱いに注意することが必要だ。私の暗室は白く塗装し液による汚れがわかるよにしている、白く塗装しても別にカブリもなく支障はない。換気装置や機器類は錆に注意し、塗装部分は二年に一回くらい塗り替えを行っている。
  次に引伸機だが、主に使用しているのは富士B型(現在同型でS-69機が販売されている)の点検整備の順をおってみよう。まず引伸機の台板の平行をだす事から始める。台板の中央は凹状の処があり、イーゼルを移動すると傾く事がある(現在は合板になり解決されている)ので台板上に10ミリのガラス板を取り付けている。イーゼルも安定する。ヘッド部分の平行はネガキャリア部を中心にしガラス板(厚さ6ミリ・幅80ミリ・長さ300ミリ)を入れ平行調整し固定する。コンデンサーレンズは、引伸しレンズの光軸と一致するよう調整する。次に電球の光軸光源ムラなど無いように取り付ける、電球は切れていないからと安心はできない、フェラメントにたるみが生じてくるので注意をする。伸ばしレンズの清掃は表面だけでなく取り外し内側もよく拭き、使わない時は暗室から出しておく。
  次にイーゼルであるが、残念ながら平行度が悪く、裏にガムテープを張り調整している、これも薄い鉄板でなく合板などで凹凸の無いものを願っている。ネガキャリヤも付属のものは、薄い金属板でプレス加工しただけのもので安心して使用できない。やむを得ずガラスキャリヤを使用している、注意点は光軸に合わすことで取り付け位置を記しておく、ガラスの間につや消しの黒紙を入れる、黒紙の窓はネガより0.5ミリ大きく切り抜く、あまり大きく切り抜くとカブリがでたり、ニュートンリングが出るばあいがある。以上がプリント前の点検及び調整箇所である。いずれにしろ、かなりの工程数で、どれを粗末にしてもよいプリントは望めない。慣れるまで、自分に合うプリント始業点検表を作成し、暗室内に張っておくと便利だろう。 ● 表現意図で現像液の調整を
  次は暗室作業に入るわけだが、まずネガの選定だ。濃度・粒状性・硬軟調・カブリの有無・作品の意図・表現すべきグラデーションは・・・・・等。私は写真だけが持つ豊富なグラデーションを重視してネガの選定をする。現像液は通常、パピトール8L入りとパピトールC10L×2入りを1対1に混合して使用している。パピトールだけで現像した場合硬調に仕上がり、また現像時間を長くすると茶系に仕上がるし、またパピトールCだと軟調に仕上がりややブルーがかり微妙なグラデーションが望めるからだ。そこで表現意図により、割合簡単に調整が可能だという理由でパピトールを使っている。
写真 1
写真1.は、「閉された扉」という組写真のトップに使ったもので、写しているのは聖書である、この写真はパピトール7にパピトールC3の割合で現像をしている。
写真 2
  写真2.は「硝子の中に」という個展の時の一枚で、これはパピトールCだけで現像している。また現像液の混合比率のほかにもいろいろの調整を行っている。 覆い焼き・焼き込みはもちろんのこと、光質を コントロールする。方法はコンデンサーの間に紗(トレーシングペーパーでもよい)を挟み、印画紙の号数をコントロールするのである。こうすると規定号数の半号程度柔らかく仕上がる・一枚のネガで、部分的に硬軟調を求めたいときは、簡単な方法に紗の使用がある。引伸機の安全フイルターの位置に紗を取り付けて露光すればいい。   しかし乱用は禁物で表現意図に合うように使用すべきだろう。写真1.は3号の印画紙に、コンデンサーに紗1枚とレンズの前に紗2枚を使用し聖書に観えるようプリントしたものである。写真2.は2号の印画紙でレンズの前に紗を3枚使用した。被写体は陶器の人形で、しかもガラスの向こうにある状態である、そこで印画全体を陶器の質感に仕上げようとしたものである。現像・停止・定着・水洗・乾燥・仕上げは基本を守り特別な方法で行うことはない。以上が私の失敗を防ぐ作業工程だが、やはり失敗をなくすのは経験の積み重ねであるといえよう。
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